こんにちは。
今回は、抗うつ薬と睡眠についてです。
SSRIなどの抗うつ薬を飲み始めたり、薬の量を増やしたりした後に、次のような症状が出る方がいます。
・夜になると脚がむずむずする
・脚をじっとしているのがつらい
・脚を動かすと少し楽になる
・夜中に何度も目が覚めるようになった
・寝ているときに脚をよく動かしていると家族に言われる
・朝起きると布団がずいぶん乱れている
・睡眠薬を飲んでいるのに、眠りが浅い感じがする
単純に「抗うつ薬を飲んだら眠れなくなった」ということももちろんあります。ただ、このような場合には、むずむず脚症候群(RLS:Restless Legs Syndrome)や、睡眠中の周期性四肢運動(PLMS:Periodic Limb Movements during Sleep)が関係していることがあります。
少し聞き慣れない言葉なので、まとめてみます。
むずむず脚症候群(RLS)とは
むずむず脚症候群は、その名前の通り脚がむずむずする病気ですが、実際には必ずしも「むずむず」と表現されるわけではありません。
典型的には、次のような特徴があります。
・脚を動かしたくて仕方なくなる
・横になったり座ったりして、じっとしていると悪くなる
・歩いたり脚を動かしたりすると楽になる
・昼よりも夕方から夜に悪くなる
患者さんによっては、「脚の中が落ち着かない」「虫が這っているような感じ」「ほてる」「何とも言えない気持ち悪さがある」「かゆいような痛いような感じ」など、さまざまな表現をされます。
そのため、こちらから聞かないとなかなか出てこない症状でもあります。
睡眠中の周期性四肢運動(PLMS)とは
もう一つがPLMSです。
これは、睡眠中に脚などが周期的にピクッ、ピクッと動く現象です。
本人が寝ている間に起きるため、自分では気づいていないことも少なくありません。
そのため、次のような症状だけが出ていることもあります。
・特に理由もないのに夜中に何度も目が覚める
・眠りが浅い
・寝たはずなのに朝すっきりしない
・昼間眠い
・頭がぼんやりする
一緒に寝ている家族から、「寝ている間によく脚を動かしている」「蹴られる」と指摘されて初めて分かることもあります。
ただし、寝ている間に脚が動くこと自体は珍しくありません。脚の動きがあるからといって、すぐに病気というわけではなく、それによって睡眠が妨げられているかどうかが重要になります。
SSRIなどの抗うつ薬との関係
ここからが今回書こうと思った理由です。
SSRIをはじめとする一部の抗うつ薬では、RLSが悪化したり、睡眠中の周期性四肢運動が増えたりすることが知られています。
特にPLMSについては、2023年のメタ解析でも、SSRIやベンラファキシンの服用との関連が報告されています。
とはいえ、SSRIを飲んだ人の多くにRLSやPLMSが起きる、という意味ではありません。
もともとRLSを起こしやすい素因があったり、鉄の状態に問題があったりするところに薬の影響が加わり、症状が目立つようになる場合があるようです。
そのため、「抗うつ薬を飲み始めてから夜中に起きるようになった」という場合にも、単純に薬が眠気を妨げているだけではなく、このような睡眠中の運動が隠れていることがあります。
このような場合は一度相談を
抗うつ薬を使っている方で、次のような場合には、RLSやPLMSが関係していないか一度考えてみてもよいと思います。
・薬を開始してから脚の違和感が出た
・増量してから症状が悪化した
・不安や抑うつはよくなったのに、中途覚醒だけが残っている
・睡眠薬を追加しても夜中に何度も目が覚める
・夜になると脚を動かしたくなる
・寝ている間に脚を動かしていると家族に言われた
鉄が関係することがあります
RLSでは鉄が重要です。
ここで少しややこしいのですが、通常の健康診断で「貧血ではありません」と言われていても、それだけでは十分とは限りません。
必要に応じて、次のような項目を調べます。
・血算
・血清鉄
・フェリチン
・TIBC(総鉄結合能)
・トランスフェリン飽和度(TSAT)
特にフェリチンは、体内にどの程度鉄が蓄えられているかを見る指標です。
RLSでは、一般的な鉄欠乏症とは少し違う考え方をするため、検査上「正常範囲」とされていても、RLSとの関係では十分ではないと判断する場合があります。
現在の米国睡眠医学会(AASM)のガイドラインでも、RLSではフェリチンだけでなく、トランスフェリン飽和度を含めて鉄の状態を確認することが勧められています。
ただし、「フェリチンが低そうだから」と市販の鉄剤を自分で飲み始めることはお勧めしません。
鉄も多ければよいというものではないため、採血をしたうえで必要性を判断するのがよいと思います。
薬はどうするのか
抗うつ薬が関係していそうな場合でも、すぐに中止しなければならないわけではありません。
対応としては、次のようなものがあります。
・抗うつ薬の量を調整する
・他の抗うつ薬への変更を検討する
・鉄不足があればその治療をする
・RLSそのものの治療を行う
・ほかに睡眠を妨げている原因がないか確認する
特にSSRIなどの抗うつ薬は、急に中止すると不安や抑うつが再び強くなったり、中止に伴う不快な症状が出たりすることがあります。
「脚がむずむずするから」「眠れなくなったから」と自己判断で薬を中止せず、まずは処方している医師に相談してください。
ほかの原因もあります
もちろん、中途覚醒や脚の違和感がすべてRLSやPLMSというわけではありません。
例えば、次のような原因でも似た症状が出ることがあります。
・睡眠時無呼吸症候群
・鉄欠乏
・腎機能障害
・末梢神経障害
・夜間のこむら返り
・アカシジア
・カフェインやアルコール
・抗ヒスタミン薬
・一部の抗精神病薬
特に睡眠時無呼吸症候群は、中途覚醒の原因としてよくあります。いびきや無呼吸を指摘されている場合には、こちらも確認が必要です。
まとめ
抗うつ薬を飲み始めたり増量したりした後から、次のようなことが起こった場合には、RLSやPLMSが関係していることがあります。
「脚がむずむずする」
「脚を動かしていないと落ち着かない」
「夜中に何度も目が覚める」
「睡眠薬を飲んでも眠りが浅い」
特に、不安や抑うつ症状そのものはよくなったのに、中途覚醒だけがなぜか残るという場合には、一度こうした可能性を考えてみてもよいかもしれません。
抗うつ薬そのものをやめれば解決する、という単純な話ではありません。薬の量や種類、鉄の状態、もともとのRLSの起こりやすさ、その他の睡眠障害などを一つずつ確認していくことになります。
原因不明の不眠と思っていたものに、このような別の原因が隠れていることもあります。
参考文献
1. Ferri R, Mogavero MP, Bruni O, Picchietti DL, DelRosso LM. Periodic leg movements during sleep associated with antidepressants: A meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2023;148:105126. doi:10.1016/j.neubiorev.2023.105126. PMID: 36914081.
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