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テレワークは必要。でも、今のままでいいのか? ― 精神科医と産業医の立場から

こんにちは。

最近、診療の中で、会社がテレワークを廃止して原則出社に戻したため、困っているというお話を聞くことがあります。

私は精神科医であると同時に、企業で働く方々の健康管理を担当する産業医でもあります。

この二つの立場から考えると、テレワークに対する評価はかなり異なります。

精神科医としてはテレワークに賛成ですが、産業医としては現在の運用に疑問を感じています。

今回は、その理由と制度上の問題について考えてみたいと思います。

精神科医としてはテレワークに賛成です

精神疾患の治療では、症状の改善だけでなく、社会生活や職業生活を維持することも重要です。

例えば、うつ病などで休職した方が復職する場合、集中力や疲れやすさ、ストレスへの耐性などに問題が残っていても、通勤や職場での対人刺激を減らすことで、安定して働ける方がいます。

こうした場合、テレワークは復職初期の負担軽減に役立ちますし、必ずしも一時的な措置である必要もないと思います。

症状が残っていても、働く環境が合っていれば安定して仕事を続けられることがあります。

テレワークで必要な業務を遂行できているのであれば、無理に出社できるようになることを治療目標にする必要はないでしょう。

産業医としては問題を感じています

一方、産業医の立場では、テレワークには難しい問題があります。

まず、作業環境管理です。

オフィスであれば、照明、温湿度、机や椅子、作業姿勢などを確認できます。しかし、自宅ではプライバシーの問題もあり、企業や産業医が作業環境を十分に把握することは困難です。

また、従業員の健康状態や業務遂行状況も見えにくくなります。

特に精神疾患から復職した社員の場合、勤務時間中にパソコンにログインしていることと、会社が求める仕事を遂行できていることは同じではありません。

日頃の診療や産業医活動を通じて、業務遂行能力が十分に回復したというよりも、テレワークという比較的負荷の少ない環境に適応することで、就労を継続している方もいるのではないかと感じています。

ただし、その働き方で健康が安定し、会社も業務遂行状況を把握して認めているのであれば、あえて負荷を高める必要があるのかという疑問もあります。

医学的な回復と、現実の職場で働けるかどうかは、必ずしも一致しないのです。

テレワークは休暇ではありません

制度上、もう一つ気になるのは、テレワークと育児・介護支援、勤務時間の調整が曖昧になっていることです。

例えば、子どもの世話が必要なのでテレワークを希望するという話があります。

通勤時間を減らして育児と仕事を両立しやすくすることは理解できます。しかし、勤務時間中に子どもの世話をするため仕事ができないのであれば、勤務時間の調整なども必要になります。

テレワークは勤務場所を柔軟にする制度であって、それだけで労務提供の義務がなくなるわけではありません。

業務を中断する必要があるなら、会社の制度に応じて休暇や短時間勤務、フレックスタイムなどと組み合わせて対応すべきでしょう。

また、出社が必要な社員に対人対応などの負担が偏ることもあります。

働き方が違っても、業務負担や評価の公平性は確保する必要があります。

費用負担を労使任せにしてよいのでしょうか

テレワークでは、自宅の通信回線や電気、冷暖房などを仕事のために使用します。

企業がオフィスの維持費を削減できる一方、従業員には新たな費用負担が生じます。

しかし、厚生労働省は、こうした費用について一律の負担割合を定めておらず、労使で十分に話し合い、ルールを設けることを求めています。なお、労働者に費用を負担させる場合には、就業規則などについて法的な要件もあります。

個人的には、業務に必要な費用なのですから、原則として企業が負担する仕組みが自然だと思います。

ただ、業務使用分の計算や精算には手間がかかりますし、情報セキュリティ、労働時間管理、健康管理などにもコストが発生します。

こうした問題を十分に整理せず、企業ごとの対応に委ねていては、管理負担を理由に原則出社へ戻そうとする企業が出てくるのも理解できます。

テレワークを推進した国の責任は?

そもそも、テレワークが普及したきっかけは新型コロナウイルス感染症の流行でした。

感染を防ぎながら経済活動を維持するため、国もテレワークを推奨してきました。

2023年5月に新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類感染症へ移行して以降、勤務形態を見直す企業も出てきました。

ここで疑問があります。

次に新たなパンデミックが発生したとき、どうするのでしょうか。

感染症危機や災害に備えるのであれば、必要なときにテレワークへ切り替えられる体制を維持しておくことには、社会全体として意味があります。

そうであれば、設備やセキュリティ対策、運用体制を維持する費用について、国が一定の負担をすることも検討すべきではないでしょうか。

すべての企業に常時テレワークを義務付ける必要はありません。

平時の勤務形態は各企業が選択し、有事に切り替えられる体制については国が支援する。そのような制度が必要だと思います。

原則出社に戻す企業の問題

そして、最近特に問題だと感じるのが、企業によるテレワークの廃止です。

数年間テレワークを認めてきた結果、それを前提に生活を組み立てている従業員もいます。

精神疾患を抱えながら、テレワークという環境だからこそ安定して働けていた方もいます。

ところが、会社が原則出社に変更したことで、通勤や職場環境への適応が難しくなり、就労継続に支障を来す場合があります。

このとき、必ずしも本人の疾病が悪化したり、業務遂行能力が低下したりしたとは限りません。

本人の状態は大きく変わっていなくても、勤務環境の変更によって、それまで成立していた就労が難しくなることがあるのです。

それを「出社できないなら休職してください」と、すべて本人の健康問題として処理してしまうことには疑問を感じます。

もちろん、企業がテレワークを継続する必要があるかどうかは、労働契約や就業規則、個別の健康状態や必要な配慮などによって異なります。

しかし、会社が勤務制度を変更するのであれば、その影響を受ける社員についても個別に事情を確認し、対応を検討することが望ましいと思います。

結局、テレワークはどうあるべきなのか

私は、テレワークを全面的に推進すべきとも、廃止すべきとも思っていません。

精神科医としては、テレワークによって働き続けられる患者さんがいることを知っています。一方、産業医としては、作業環境や健康状態、業務遂行状況を把握しにくいことに問題を感じています。

重要なのは、本人の健康状態と実際の業務遂行能力を分けて考えることです。

企業には適切な管理と評価、労働者には通常の勤務と同様の責任が求められます。

そして国も、テレワークの運用を労使任せにするだけでなく、管理基準や費用負担の仕組みを整え、将来の感染症危機に備える体制を支援する必要があるでしょう。

テレワークをするか、しないかではなく、一つの働き方として責任を持って運用できる制度にすること。

そして、その働き方だからこそ働けている人がいるという事実を、忘れないこと。

コロナ禍から数年が経過した今、改めて考える必要がある問題だと思います。