こんにちは
新型コロナウィルス感染のあとに引き続く精神、神経的な不調についての続きです。
前回のまとめ
新型コロナウイルス感染後の後遺症では、精神神経的な症状が多く生じます。感覚運動症状や認知障害、知覚異常、めまい、バランス障害、光や音の過敏、味覚や嗅覚の喪失などがみられ、感染後2年近く持続することもあります。
直接の原因は不明ですが、脳内で炎症(免疫細胞などが活発になるお祭り騒ぎ)特にミクログリアと呼ばれる細胞の変化しているようです。慢性疲労症候群との類似性が指摘されており、コロナ感染後にEBウイルスやヒトヘルペスウイルスなどのウイルスが再活性化するケースもあります。
治療について
前回は決まった治療法は未確立、というところで終わりました。もちろんコロナ感染症なのでコロナに感染しないようにする(ワクチンなど)コロナウィルスを撃退する治療などは重要になりますが、後遺症についてはコロナウィルスがいなくなっても症状が残るというのが問題になります。結局、免疫異常が続くのか、実はウィルスが隠れているだけなのかその両方なのかとりあえず脳内で炎症が続いてしまうのでその炎症を治めるのが治療の方向性になります。慢性疲労症候群も同じような状態なのでその治療(こちらも確立されているとは言えませんが)も可能性としてはありそうです。
ちょっと詳しく
脳の前のほう前頭葉の中に前皮質という部分があります。文字だと表現しづらいのですが、脳を前からガッと鷲掴みにしたときに指先のあたりにある部分です。ここは選択的注意といって集中力の源のような部分なのですが、ストレス(や炎症)に弱いです。注意欠陥多動性障害(ADHD)の方などはこの部分の働きが弱まっていると想定されていて、持続的なストレスが加わると神経細胞の結合が弱まり脳が萎縮(ダメージを受けて縮んでしまう)したりしてしまいます。これが抑うつ状態を反映すると想定されていたりします。これにはNMDA受容体とAMPA受容体という脳内スイッチが関与していて、NMDA受容体のスイッチがONの状態で神経の伝達を維持していますが、ストレスがかかるとAMPA受容体のスイッチが入って神経細胞の結合が弱まります。前皮質という場所はNMDA受容体よりもAMPA受容体のほうが多いのでストレス(炎症も)に弱いといわれています。
コロナウィルスが脳内に入るとキヌレン産というのが増えて、炎症を起こすとAMPA受容体のスイッチが入るとともに、キヌレン酸という物質が増え、こいつがNMDA受容体のスイッチをOFFにしてしまいます。
こうしてどんどん機能が落ちていってしまうことになります。
治療法
前述の2つをカバーできれば治療になりそうということで今実験が進められています。
今のところ薬物療法で報告があるのは、
低用量ナルトレキソン
麻薬の拮抗剤で依存症の治療に使う、化学療法に伴う麻薬の副作用提言にも使われているようです。
低用量のアリピプラゾール
抗精神病薬ですが、その作用の特性からうつに使ったり自閉症スペクトラム障害の衝動制御に使ったりなどします
コエンザイムQ10
日本でもサプリでおなじみの強力な抗酸化物質です。炎症を止めます。
Dリボース
ATPという体内でエネルギーを担う物質の原料となる物質で疲労回復に、というサプリ。疲労なら回復すればいいじゃない、という理屈。
Nアセチルシステイン(NAC)
コエンザイムQ10と同じような強力な抗酸化物質です。炎症を止めます。
グアンファシン
もとは血圧の薬として作られ、いったん製造中止となりましたが、ADHDの薬として復活した薬です。前皮質において、神経のつながりを強化する作用があります。(集中力を増す作用)。
上記が現状出ているものですね。副作用などもあったりするため治療法としてはまだ実験段階という感じです。とはいえ、グアンファシンが良いのならアトモキセチン(作用の若干違うADHDの薬)なども理屈上よいはず。あと抗酸化物質がいいのなら各種ポリフェノール類やフェルラ酸などもよいのでは?など想像が広がります。ここら辺はアンチエイジングで結構使われたりするのでやはり精神科とアンチエイジングは切っても切れない関係かと。
いろいろ気になることがあればご相談ください。