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こんにちは
私は精神科なので妊娠については直接取り扱うことはないのですが、出産後に抑うつを呈する産後うつ病など女性ホルモンのバランスにより精神症状がでたりするため情報を仕入れていたりします。最近つわり用の新薬がでるという話を聞いていろいろ調べたのでそれについてまとめようと思います。まず、-
つわりは「心の問題」ではありません
脳とホルモンが関係する、れっきとした身体反応です 。ごくまれに心の持ちようの問題とかいう方がいますが、そうではありません。
つわりはなぜ起こるのか?
― 脳が主役です ―
つわりは、胃や腸の病気ではありません。中心にあるのは脳(中枢神経)です。
妊娠初期には、体の中で急激な変化が起こります。
● 妊娠ホルモン(hCG)の急上昇
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妊娠6〜12週にピーク
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吐き気のピークと時期が一致
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嘔吐中枢を刺激し吐き気をだす
● エストロゲンの増加
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嗅覚・味覚が過敏になる
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においだけで気持ち悪くなる
● プロゲステロンの作用
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胃腸の動きがゆっくりになる
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胃もたれ・吐き気が持続しやすい
これらが重なり、「吐き気を感じやすい脳の状態」が一時的に作られます。
脳には「嘔吐中枢」と呼ばれる部位があります。妊娠初期には、上記の作用によって非常に敏感になります。すると、
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空腹
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軽いにおい
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ちょっとした不快感
といった、普段なら問題にならない刺激でも「気持ち悪い」「吐きそう」と強く感じるようになります。これは 脳の感受性が上がっている状態といえます。
新薬の中身はビタミンB6と抗ヒスタミン
新しい治療薬は”徐放性の”ビタミンB6と抗ヒスタミン薬の組み合わせのようです。”徐放性”-少しずつ体内に作用してゆく、ところが新しいところです。
ビタミンBは水溶性なので比較的早くからだから出て行ってしまいます。そのため長く効くように作られているようです。
なぜビタミンB6が効くのか?
つわり治療でよく使われるビタミンB6は、GABA、セロトニンといった神経伝達物質を作ることを助ける作用があります。つまり、
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神経伝達物質(GABA、セロトニンなど)の働きを助け
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脳の過剰な興奮を穏やかに調整します
強く眠くする薬ではなく、「脳のバランスを整える」方向に働くため、妊娠中でも安全性が高いとされています。
抗ヒスタミン薬が効く理由
一部のつわり治療薬には、抗ヒスタミン作用があります。
ヒスタミンは、
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吐き気
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乗り物酔い
にも関係する物質です。これを抑えることで、
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吐き気が軽くなる
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眠気が出ることがある
という作用が現れます。眠気は副作用ではありますが、「脳の過敏さが下がっているサイン」でもあります。
ビタミンBについて
ビタミンBはいろいろありますが、だいたい全部神経伝達物質と関係があります。
例えば脚気で膝にハンマーを充てる検査は腱反射をみています。脚気ではビタミンB1が枯渇して反射を起こす神経がやられてしまうので腱反射が起きなくなります。
ビタミンBの神経伝達物質との関係をざっくりまとめると
- 神経伝達のエネルギーの基盤 → B1、B2、B3
- 神経伝達物質を作る環境を維持する → B9(葉酸)、B12
- 神経伝達物質の合成を助ける → B6
という感じです。
ちなみに
- ビタミンB5 → アセチルコリンの材料
- ビタミンB7(ビオチン) → 神経の代謝環境の安定
です。
また、そのほかのものは人では必須な栄養素ではなかったり、同じだったりしたのでナンバリングでは使われなくなりました。
- ビタミンB4 →主に ”コリン”でアセチルコリンの前駆体です。
- ビタミンB8 → イノシトール。 今はビタミンと呼ばれない。セロトニン受容体のシグナル調整、神経細胞膜の機能安定化。
- ビタミンB10 → パラアミノ安息香酸。腸内細菌における葉酸合成に関与
- ビタミンB11 → 葉酸のこと
神経に関係はしているようです。
まとめ
つわりの作用と治療をまとめてみると、抗不安薬とか抗うつ薬とか抗精神病薬とかでも治療は行けそうと感じますね。ただこれらは各々胎盤を通して胎児に移行しますので、通常は使わず、本当に重い人に使うということは考えてもよさそうですね(状況は極めて限られると思いますが)
ビタミンB6が選ばれる理由については直接神経伝達物質の合成に関与するから、というところでしょうか。全部あったほうが良いと思いますが、保険診療上、つわり(妊娠悪阻)に対して許されている治療薬は吐き気止めくらいであまりありません。なので食事かサプリメントで補うしかないのですが、つわり中の人に食事をとれ、というのは拷問に近い気もするのでサプリを使うのもやむ無しかなと思います。



