昔、新宿あたりを歩いていると自称手相占いを学んでいる人に絡まれました。占いだと思うのですが、その時は右手の手相がすごいと言われ、何がすごいのか教えてくれなかったのでそのまま帰りました。医学でも手相を疾病の所見とみることがあります。有名なものは猿手(てのひら中央の一番大きいしわが横一文字になっているもの)でしょうか。ダウン症の人に特徴的と教科書には書いていますが、私の左手も猿手です。ダウン症でもありません。ここら辺はちょっと難しくなりますが、所見があったとしても病気とは診断できません。状況証拠の一つみたいなものです。
似たようなものに2D:4D比(第2指と第4指の比率)というものがあります。これは人差し指(第2指)の長さを薬指(第4指)の長さで割った値で、胎児期のテストステロン暴露量を反映する生物学的マーカーとしての意義が割と確立されています。今回はこの比率とある種の精神障害の関連について話してみます。
は、私たちの発達や行動特性に重要な示唆を与えてくれる指標として、近年研究が進んでいます。
2D:4D比とは
先ほど言ったように2D:4D比は人差し指(第2指)の長さを薬指(第4指)の長さで割った値、この比率は胎児期における性ホルモンの影響を受け、生涯を通じてほぼ一定に保たれることが知られています。また、男性の方が女性より低い比率(0.94-0.97と0.97-1.00)ことが知られています。
胎児期の8-14週において、性ホルモンの影響により指の長さの比率が決定されます。薬指にテストステロンの受容体が多くあり、濃度が高いほど薬指が相対的に長くなり、逆に人差し指はエストロゲンの受容体が多くなり、人差し指が長くなります。
そして胎児期の性ホルモンの曝露度合を反映するのでそれに応じて起きる脳の変化と関連があることも言われています。
様々な特性との関連
1. 自閉スペクトラム症(ASD)との関連
ASDを持つ個人では、特に男性において低い2D:4D比(人差し指が薬指より短い)が報告されています。これはASD「極端な男性脳理論」という仮説の生物学的証拠の一つとして考えられています。この理論では、胎児期の高いテストステロン曝露が脳の発達に影響を与え、ASDの特徴的な認知スタイルや行動パターンの形成に関与している可能性が示唆されています。特に、社会的コミュニケーションやパターン認識、細部への注目といったASDの中核症状との関連が指摘されています。
2. ADHD(注意欠如・多動症)との関連
ADHDの症状と2D:4D比には負の相関(人差し指のほうが短いほど症状との関連が強い)が報告されており、特に多動性・衝動性の症状との関連が指摘されています。
胎児期のテストステロンは、体性感覚野と視覚野から前頭皮質への軸索連絡、および扁桃体の機能的連結性に影響を与えるようです。また、羊水中で測定された高い胎児期テストステロン値が、ご褒美を耐える力の低さや注意の問題、過活動行動と関連します。出生後もテストステロン濃度が高い場合、左扁桃体と前頭前皮質の皮質厚との間に負の共分散が生じ(厚みが薄い傾向)、これが高い攻撃性につながる可能性があるようです。他に前頭前野-海馬の正の共分散と関連し、これが実行機能の低下につながる可能性がありADHDの主要な症状の一つを形作ると言われています。
3. アルコール依存症との関連
低い2D:4D比を持つ個人は、アルコール依存のリスクが高まる可能性があります。これは胎児期のホルモン環境が後の依存傾向に影響を与える可能性を示唆しています。胎児期のホルモン環境(特にテストステロン)が体性感覚野と視覚野から前頭皮質への軸索連絡に影響を与えたり、扁桃体の機能的連結性に影響を与え報酬系の反応性の変化を引き起こします。(前述ADHDの項)これにより依存傾向が増すと言われていますが、ADHDとアルコール依存症の交絡がある気がします。
その他の関連する特性
- 攻撃性・競争性
- 空間認知能力
- スポーツ能力
- 性的指向
まとめ
指を見るだけでもこういったことまで議論できるようです。ただし、あくまで”関連”なので猿手と同じように短いからそうだ、というわけではなく診断などの状況証拠の一つ程度に思わないといけません。